「モード案内・1」を、おおまかに分類すると
さて、どんなことが書かれているか、内容を見ていきましょう。
「モード案内・1」の内容をおおまかに分類すると以下になります。
①生地・柄のことや洋裁のテクニック
②さまざまなスタイル
③TPO
④海外ブランド紹介
⑤おしゃれ・着こなしについての私見など
一冊全体に目を通せば、マダム・マサコの考えるモードというものが、どのようなものか理解できるのですが、これらがはっきりと分類されずに並べられていて、体系的になっていないのです。
通して読めば、洋裁する方の知識として、また洋裁はしないけれどオーダーする際に必要な知識、また着こなしについての知識も得られるようになっています。
とりとめなく書かれている……とも言えるのですが、このとりとめなさ、独特の言葉運びが、マダム・マサコの魅力でもあります。
マダム・マサコのこだわり
生地と柄
マダム・マサコの著書の特徴のひとつに、生地と柄の説明にページを割いていることがあげられます。彼女の最初の著書「モード案内・1」においても、すでに顕著に表れています。
グラビアページを用い、写真でしっかり説明しています。
右上から時計周りに、シェパードチェック、ピエ・ド・ロアゾ、グレン・チェック、ペンシル・ストライプ、タータン・チェック、ヘリング・ボーン、チョーク・ストライプ
本文内でもたっぷりと紙面を取っています。
マダム・マサコの記述を見てみます。
ラシヤの柄について
日本のきものでも、女は女柄、男は男柄と申しますが、外国の人もその区別は、ちやんともつていて、ラシャでも『女柄と男柄』というものは、はつきり分けているらしいのです。
生地ばかりでなく、柄からいつても、それで作つてはならない形とか、またはぜひこの柄で、ということが大体あるのですから、たとえば女ものの柄を、いくらスポーティな場合でも、男の方がなさるのはお止めしたいと思います。これはちよつと、男子服のお話にもなりますが……。
ラシャの伝統は、英国のマンチェスターで、しかも男物が先きに生まれたらしく、今日でも、男ものの柄が、女ものの柄の基礎をなしています。そうした決まつた柄を一応頭に入れておくと、いろいろ変化してくる柄に対しても、見識が持てましよう。(1p)
ラシャとは、毛織物の一種のこと。
続けて、スーツなどに用いられるラシャ地と、それに見られる柄の説明をとても丁寧にしています。
六つの柄
無地を別にしますと、ラシヤの柄は大体上の図にあげた六つが基礎になつているようで、一番上等の織り場のラシヤといえば必ず、この柄のどれかが織られてあり、又最も通な紳士方は、この柄以外はお作りにならないようです。
ちようど日本で、男のきものの最上だといわれる結城や薩摩が、十絣か蚊絣か大名絣より、作らないというのとよく似ていて面白いと思います。
ロンドンに、ラアシア・ストリートという街があつて、ここはラシヤ屋さんばかりの問屋街なので、この街の名から日本で毛織物の事を、ラシャという様になつたのだといわれています。
女のことはすべて、巴里がもとですけど、男ものの本格的なラシャだけは、どうしても英国でしよう。(1p)
この後に出版される書籍も、必ず生地と柄について、しっかりと説明していくのですが、それには彼女のデザイナーとしての考えがあるようです。こんな記事を見つけました。
形は生地から
木綿のゴリゴリした厚い生地で、ロングなギャザースカートを作ったら、ほおずきのお化けか、裸人種のスカートのようになつてしまいます。厚い硬い生地なら、やつぱり短いプレインなものです。
形というのは、生地から決定的に生まれてくるもので、ロングのひだの沢山入ったスカートを作るのなら、デシンのような編物か、ごく柔らかいものが多いのですが、これが更に決定的な厳格といつていい位のもので、実さいに作るものの側になると、生地のデリケートな違いが、どうしようもない、かげや、ドレープの味を決定するものです。
(56p)
つまり、生地がデザインを規定する、ということが言いたいようです。戦後、爆発的な洋裁、洋服ブームが起こり、洋服の知識がまるでない時代のこと。デザイン優先で生地についての知識がないと、そのデザインの再現もできない。そういう、いまでは当たり前のことから、啓蒙していく必要があったのでしょう。