洋裁の専門知識を伝授するという意志。
「モード案内・1」には、洋裁の専門知識も伝授するというマダム・マサコの意志を感じます。これ以降の著書にも、洋裁知識の伝授という側面も見られるのですが、「モード案内・1」にはより強くそれを感じます。
巻頭モノクログラビアには、スタイル画やフランス版ヴォーグからの転載写真と並んで、こんなページも用意されています。
本格的に洋裁するときに必要な道具の紹介です。
上から、うで木、せりいた、ほおきブラシ、ひつぱたき、ゆき割りと書いてあります。
うで木について、こんな説明がされています。
明治初年、英国人から仕立てを教わつてからずつと使っているものです。袖を作るのに使うもので、うで木と呼ばれています。袖の仮ぬいの時からこれを中に通してしますし、ミシンで縫つてアイロンで割る時も、こんなのがなければうでの形なりに曲つた袖というものができるわけはないのです。商売人が作つた服は、どつか、ぴつたりしてくずれてこないとというのは、先ずこんな道具があるのです。
せりいたは、ズボンを作るときに必要なもので「ズボンの中に入れて縫目を割つたり、仮ぬいしたり」するときに必要なもの。
下段の中央、卓球のラケットのような形のものは、ひっぱたき。
「アイロン光りのした時、むして毛を起てたりした瞬間これでひっぱたくようにおさえて仕上げるのです」と、使用方法を説明しています。
これはいまでも洋裁される方には必要なアイテム。
右から、袖まん、大まん、鉄まん、小まんです。仮縫いするとき、ブラウスやジャケットなど、立体的な部分にアイロンをかけるときに用いるように、マダム・マサコは推奨しています。
肩パッドを分解しているカットです。それもバーバリーのコートかジャケットの肩パッドを分解しているのです。マダム・マサコの旺盛な研究心がうかがえます。
バアバリイのパッド
世界一といわれるバアバリイのパッドです。
解いて見て驚いたのですが、十五種類のウールや綿が、重つて一つのバネのような役目をしているのです。
まずいパッドは一度の洗濯で肩がくずれますがこれだけのものをその人の肩の形に合して専門のパッド作りの人がつくるのでいつまでもちゃんとしている。
かたく刺してあるので厚みは一センチ半。純毛のものを、うすく何枚も重ねるところが、バネの作用を起こすわけでしょう。上の角の小さいのがバアバリイのネムプレイト。
また、アメリカの既製服のパッドも分解して、比較しています。
写真上の説明を見てみましょう。
アメリカのレディメイドのパッドの切り口です。よく切れる大きな鋏でばちん、とやつたようです。前頁のバアバリイと比べるとずつと、簡単ですが、しかし、白い綿の下は、スコッチ糸の沢山はいつたウールです。男女テイラードの場合、最低必需品。
「モード案内・1」が発行された昭和25年(1950年)は、洋裁ブームの渦中にあったころ。バーバリーとアメリカの既製品の肩パッドの違いを見極めて、丁寧に説明しているということは、本格的に洋裁を志す女性読者たちの要請に応えていたのかもしれません。